組織を治めるための普遍的な真理は何でしょうか?
本記事では、『論語』における孔子の教え「道千乘之國(大国を治める五原則)」を深掘りします。
統治者が持つべき「敬事而信」「節用而愛人」「使民以時」の原則は、現代のリーダーシップや上司・部下の関係にもそのまま適用できる普遍的なマネジメント術です。
この古典の知恵から、組織の信頼を築き、成果を出すための真摯な姿勢(務本)を学びます。
論語「道千乘之國」の書き下し文と現代語訳
子曰:「道千乘之國,敬事而信,節用而愛人,使民以時。」
Zǐ yuē: “Dǎo qiān shèng zhī guó, jìng shì ér xìn, jié yòng ér ài rén, shǐ mín yǐ shí.”
(簡体字:子曰:「道千乘之国,敬事而信,节用而爱人,使民以时。」)
書き下し文:
子曰く、「千乗の国を道びくに、事を敬して信、用を節して人を愛し、民を使うに時を以てす。」
意味:
先生は言う。
「大国を治めるには、統治に専念することで、民の信頼が得られる。財を節約することで結果民のためになる。民を使役する時は、農閑期を選び、民の本業を邪魔してはならない。」
【原文解説】「道千乘之國」:単語と儒学の視点から紐解く統治の五原則
道千乘之國
「道」は「導く」という意味で、後に「導(导)」と書かれるようになりました。
読み方も「dǎo」にするのが一般的です。
「千乘之國」は、兵車(戦車)を1000機出せるほどの国ということで、大国を指します。
敬事而信
「敬:jìng」は、精神を一つに集中させて、脇見をしないことを言います。
真面目に取り組む様子ですね。
「敬事」の「事」は「道千乘之國」(大国を治めること)を指します。
「信:xìn」は、信用のことを言い、ここでは人民から信用を得ることです。
曾子が毎日反省する與朋友交而不信乎?の「信」は、
言うことが誠実で嘘偽りがなく、信用を守ることを指すのでした。
節用而愛人
「節」はここでは「節制して控えめに行う」ことです。
「節用」は国の財を節約して使う、浪費しないことを言います。
「愛人」は人民を愛すること。
『易経』にもある通り、散財すれば人民を苦しめることになるため、
統治者は浪費すべきでないということです。
節以制度,不傷財,不害民。
(制度によって節度を定めれば、財を浪費せず、人民を苦しめることはない)
使民以時
「使民」は民を労役に使うこと。
「時」は適切な時期のことを指し、ここでは農閑期を言います。
古代中国の人民はほとんどが農民で、農繁期に使役すると収穫も減り、
結果として国は貧しくなり、人民は苦しみます。
そのため、統治者は農民が自分の本来の仕事をしっかり全うできる(務本)配慮をする必要がありました。
現代版マネジメント:「道千乗之國」の五原則を上司・部下の関係に活かす
上の人間は『務本』(根本を大切にする精神)をもって、この五原則を実行する必要があります。
- 敬事
- 信
- 節用
- 愛人
- 使民以時
そして、すべてにおいて「敬」(真摯な心の態度)が基盤になるのです。
上不敬則下慢,不信則下疑,下慢而疑,事不立矣。敬事而信,以身先之也。
「上が慎重(敬)でなければ、下は怠ける(慢)。上に信用がなければ、下は疑う。下に怠けと疑いがあれば、事は成り立たなくなる。敬事而信は上が身をもって示さなければならない。」
トップでなくても、上司と部下、先輩と後輩の関係においても成り立ちます。
孔子が示したこの五原則は、国を統治する時だけに通用するわけではありません。
現代社会でも、個人にあてはめることができる普遍的な真理なのです。
そしてこのような真摯な態度が人を感化し、
人が集まってくる(有朋自遠方來)のでしょう。
孔子の教え全体は繋がっていると改めて実感できます。
