中国ビジネス情報誌『新周刊』第592期に紹介された記事から紹介します。
まずFIRE(Financial Independence, Retire Early)とは「経済的自立」と「早期リタイア」という意味です。
年間支出の25倍の金額を貯金して、これを4%で資産運用(4%ルールと呼ばれる)すれば働かずとも生活していけるというもので、日本でも注目されていますね。
世界に広まったきっかけと言われる書籍は以下の3冊です。
↑こちらは日本語訳が出ていません。
そして、この概念が今中国でも浸透してきました。以下、くわしく見ていきましょう。
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中国版FIRE―いくら必要?
中国でも過労死(过劳死:guò láo sǐ)や35歳限界説(35岁职场危机:sān shí wǔ suì zhí chǎng wēi jī) という単語が使われるようになりました。
さらに996という言葉もよく使われます。
これは午前9時に出勤して、夜9時まで働くというのを週に6日繰り返すという意味です。
そして、中国ではそんな中「早期リタイア」という考え方が夢ではなく、自己救済のアイデアとして広まっているのです。
経済的自由になるには〇〇円必要!
中国では337都市を1〜5までの段階に分け、一线城市:yī xiàn chéng shìなどと呼んでいます。
《2021胡润财富自由门槛:hú rùn cái fù zì yóu mén kǎn》という研究報告によると、基本的な経済的自由を達成するために必要な貯金額が1〜3段階の都市について具体的な数字が示されています。
一线城市:yī xiàn chéng shì 北京・上海・広州・深セン
1900万元(3億3,000万円)
二线城市:èr xiàn chéng shì 大連・長春・アモイなど
1200万元(2億1,000万円)
三线城市:sān xiàn chéng shì 洛陽・吉林など
600万元(1億450万円)
となっていて、実現するにはかなりハードルが高くなっています。
ちなみに、中国で名門校を卒業した人たちがいくらくらいもらっているかなどは以下の記事で紹介しました。参考にしてみてください。意外に少ないです。
学歴社会の中国―高学歴でも就活難。新卒の求める給料も年々さがっている
それぞれの都市ごとの平均月収などくわしい金額はこちらの記事で紹介しています。
中国の平均月収を都市別で公開!今中国のサラリーマンに人気の業種は〇〇!
35歳でFIREしたいLinaさんの場合
上記の額に比べるとFIREを達成する方が「庶民的」といえます。
Linaさんは2021年の5月までに50万元(850万円)の貯金をする計画を立てましたが、実際には75万元(1300万円)貯めることができました。
Linaさんは2019年1月からFIRE計画をはじめ、180万元(3,100万円)の貯金と二线城市:èr xiàn chéng shìに不動産を1つ持つことが目標でした。
貯金額が増えることに快感を覚え、2020年12月には貯金額が43万元(750万円)までいきました。予定より11万元(192万円)多い計算です。
2021年2月には貯金が65万元(1,130万円)にまで達し、これは予定より19万元(331万円)多い計算になります。
毎年1度の転勤が貯金を加速させる
このように貯金が加速して増えていく理由の1つはLinaさんが毎年1回転職していることがあげられます。
転職するたびに収入は30%以上UPしています。
転職せずに、運良く昇給したとしても20%くらいしかUPできなかったと彼女は言います。
「先に大きい会社に行って箔をつけて、その後小さい会社に行って給料UP」というのが社会人歴6年の彼女が持つ規則です。
最初の転職では他の大きい会社に移りました。
以前の大企業では悪夢のような生活が続いていました―毎日の残業で1日の時間の大半が仕事で埋まってしまっていました。
夜中の2時にパソコンの前で号泣して、その後不眠に陥るのです。自分の心臓の鼓動で飛び起きたこともあります。
そしてその時はもう死ぬんじゃないかと思ったと彼女は言います。
一冊の本との出会い
彼女は毎日会社をやめることを考えながら銀行の貯金額をチェックして、北京では何ヶ月生活できる額だろうと計算し、同時に焦りが生まれ、安心感がなくなり、仕方なく会社に戻るという生活を繰り返していました。
そのときに出会ったのが“不上班也有錢:33?開始Winnie散漫遊【電子書籍】[ 曾?鈴 ]”という本。これを読んで自分は35歳までにリタイアしようと決意したのです。
この書籍は台湾の著者によって書かれ、日本語版が出ていないので中国語がわかる方はぜひチェックしてみてくださいね!
この計画を開始してから彼女は、会社から逃げたいという負の力をお金を稼ぐという正の力へと変えて行きました。
そしてまた次の大企業へと転職したのです。そしてまた残業の日々が始まりました。
また大企業を選んだわけは、大企業での経験が足りないから小さい会社に行っても給与交渉できないだろうという考えからでした。
「給与が高く、残業がない」これが彼女にとって一番重要な2つの条件で、仕事内容にはもうまったく期待していないと彼女は言います。
株と投資信託
Linaさんのもうひとつの収入源は株式投資と投資信託です。
自由に使えるお金は10万元(170万円)だけで、あとはすべて投資しています。
「一般的には手元にある現金が多い方がいいと思うんでしょうね。たとえば両親のためとか、もしくは子供への投資とかのためにね。
でも、私はそんなこと考えられない。まずは如何に早く投資の配当で生活費をまかなえるかを考えてるの。」と言います。
今年は服を買わないと決め、さらに家賃も半額まで下げました。
大きな出費などがあり、その月の貯金額が前の月より少なかったら彼女はすごく落ち込みました。
「去年は両親が家をリフォームしたから、家電をたくさん買ってあげたの。ほかには友達の結婚式があったりしてお祝儀も渡した。だからその月、貯金できた額が一気に減ってすごく落ち込んだわ。こういう出費は抑えようにも抑えられないでしょ。どうすればいいの?」と彼女は去年のことを今でも覚えているといいます。
彼女は自分のことを「回し車にいるネズミ」と形容します。「必死に回しているけど、遅かれ早かれ降りる時がくるというのは知っている。」
早期リタイア計画は実行してから徐々にネガティブな感情から抜け出せていると言います。
「世界で90%以上の人が自分の仕事が好きじゃないそうなの。もしこういった状態を『慢性自殺』」と例えるなら、私はその『慢性自殺』の時間を短縮させているでしょ。それなら一時の苦労なんてなんとも思わないわ。」と自分に言い聞かせます。
早期リタイアまでのハードル
いくらまで貯めれば早期リタイアは実現できるのでしょうか?
まずひとつの原則としては、働かなくても自動的に入る収入、いわゆる不労所得で生活費をまかなえる状態になることです。
では、どのように実現させるのでしょうか?
4%の法則というものを使います。これは株式投資や投資信託で平均年間利率4%で運用するというものです。
Linaさんの場合、月の生活費が6000元(10万円)なので年間72000元(120万円)ということになります。
年間4%の配当金でこれをまかなうとすると180万元(3200万円)の貯金があれば早期リタイア実現、つまりFIREできるということになります。
計算方法としては、年間生活費x25(年間生活費÷4%と同じ)で出ます。
みなさんもぜひ計算してみてくださいね。
できるだけ早くFIREを達成させるには節約+収入UPが必要になります。
30歳まえに早期リタイアした女性の例
躺师:tǎng shīは、30歳になる前にFIREを達成しました。
リタイア生活に入る前には、規則正しい生活を思い描いていたといいます。
毎日運動して、何かを勉強して…。しかし、その情熱は始まる前に消えてしまいました。
トレーニングマシーンも買って、ウェアも買ったものの、すぐにやりたくなくなってしまい、結局一日たりともトレーニングしたことはないのです。
彼女が唯一毎日やっていることといえば、買った株価が上がるよう祈ることくらいです。
あとは家にいるときは横になっていて、外に出るとしたら盲人按摩に行ったり、足つぼマッサージやサウナに行ったり、どれも横たわっていているだけのものです。
今の若者が仕事に行かずに家で横になっていることを選ぶというので“躺平:tǎng píng”と呼ばれますよね。
彼女は自分もそのようだと笑います。
中国の若者―寝そべり主義?躺平主義?中国ビジネスのキーワードは「若者」
早期リタイアの副作用
早期リタイアをするにあたって、ぶち当たる壁は人間関係と生活習慣の再構築です。仕事で埋まっていた時間が突然空白になるのです。
退職後に旅行に行く人も多いですが、時間が経つと旅行へのモチベーションや意義も見いだせなくなるといいます。
早期退職できてうれしくて感情的に高ぶっている期間を過ぎると、退屈と焦りの感情が湧き上がってくるようです。
人によっては軽度のうつ状態に陥ったり、不安障害に悩まされるようになる人もいるのです。
これは自身が価値を見いだせるものは何か、価値観はどこにおいているのかを長年無視してきたからだといいます。
ながく価値観が見つけられずにいると、精神的危機がやってきます。
桃子さんの場合
桃子さんはFIRE後、物書きに多くの時間を使いました。
しかし30万文字の小説を書き終えた後、これ以上書くのはやめることにしました。
「物書きには才能が必要です。私は物書きの中に価値観を見いだせなかった。」
桃子は以前の仕事はすごく疲れましたが、充実感がありました。
そこで、また新たな仕事を探し始めることにしたのです。
しかし、空白期間が何年もあり、そんななか今からまた仕事を探すのはきまりが悪くも感じています。
以前は業界の第一線を走っていた桃子は、今から探しても第一線に戻れるとは思っていません。
しかし、同時にそれ以下になることも受け入れられずにいるのです。
ネットでは早期リタイアした人のうらやましい日常がUPされていますが、大部分の早期リタイア者は発信していないだけなのです。
長い長い生活をどう設計するか、自分のモチベーションをどう維持するかという問題に直面している人も多いといいます。
人はリタイアしようがしまいが不安や焦りからは逃げられないのです。
そして、価値観も深いレベルで満たされる必要があるのです。
定年まで働き続けるというのはもはや必修の選択肢ではなくなっています。
自分の今ある選択肢を捨てて、新しいことに挑戦することも可能だと筆者は言います。
さらにFIREについて理解を深めたいアナタ!話題の4冊を載せておきます!
これを機に新しい人生設計を!
★中国語勉強中の方へ
「ちゃいなサプリ」のYouTubeでも中国語文法を1から解説しています。
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以上です。ありがとうございました。
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