こんにちは!ちゃいなサプリのYukiです。
中国ビジネス情報誌『销售与市场』第711期に紹介された記事から紹介します。
中国のネット上で話題になった問題の中にこんなものがありました。
「どうしてマックとかの洋式ファストフード店で仕事する人は多いのに、中華のファストフード店で仕事をする人はいないのか?」
この問題に対してこの記事ではデザイン心理学の観点から分析しているので、くわしく見ていきましょう。
動画版もあわせてどうぞ↓
マクドナルドのデザイン心理学
まず筆者は4つの問題を提示します。
1・なぜマックパイのパッケージには表と裏あわせて4つの穴があるのか?
2・なぜマクドナルドは紙の袋で、ケンタッキーはビニール袋で包装するのか?
3・どうしてマックの紙袋には取っ手部分がないのか?
4・マクドナルドはいかにデザイン心理学を使い、消費者の本能レベル・行動レベルの欲求を満たし、内省レベルの性質を刺激して懐かしませているのか?
(※本能・行動・内省レベルについては以下くわしく解説)
誰のためのデザイン?
本誌の中でドナルド・ノーマンの著書『誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ―認知科学者のデザイン原論』が紹介されています。
本書の中では人間の大脳の活動には3つの「レベル」が存在していると言います。
それが「本能レベル」「行動レベル」「内省レベル」
以下くわしい解説を見てみましょう。
「本能レベル」
無意識に認識される最も原始的な反応。良いか悪いか、安全か危険か、基本的にすべての人が同じように考えるような直感的な反応。
http://tableaujpn.blogspot.com/2018/07/Design-of-Everyday-Things.html
この本能レベルで嫌われると使ってもらえなくなるので、まずデザインする人はこの本能レベルをクリアすることを考えなくてはなりません。
どんなに便利なものも、使ってもらわなければ意味がないので。
これは生まれつきのものであり、無意識レベルで感じるものです。
たとえば、きれいと感じることなど。
「行動レベル」
これは学習されたスキルの原点です。話したり、動いたり、実際に行動を起こすレベルのこと。
http://tableaujpn.blogspot.com/2018/07/Design-of-Everyday-Things.html
自分の意志で動いているように見えますが、行動レベルは実は潜在意識的。
なにかをしようと思った時、やっている行為そのものは意識していない(たとえば、言葉は発するまで何を言おうと思っていたかはっきりとわかっていたわけではなかったり、手を動かすとき右手を動かしたいと思っているだけでどの筋肉をどう動かすなどと認識しているわけではないこと)ですよね。
これは後天的に身についたものですね。
経験や行動に基づくもので、便利だと判断するのもこの行動レベルです。
「内省レベル」
これは意識的な認知の原点です。本能や行動レベルは分析を伴わないため即座に反応する迅速なものですが、内省レベルは深くゆっくりとしていて、たいていの場合あとからゆっくり起こるものです。
http://tableaujpn.blogspot.com/2018/07/Design-of-Everyday-Things.html
私たちは内省的なレベルでの意識処理には気づくことができます。
これは積極的なものです。思考することで興味深いとかおもしろいと感じるのです。
これらは連動しているため、デザインをする上でこの3つの要求を満足させることを念頭に置かなくてはなりません。
本書はデザイン界でもバイブルとして扱われ、世界中で教科書的に読まれています。
紹介文をのぞいてみましょう。
「製品デザインの世界に衝撃を与え,大ロングセラーとなった初版から25年。
デザインの原則は同じでも,文化は変わり,テクノロジーも大きく進化した。
その間の学びと経験を加え,事例も一新,記述もさらにわかりやすく,全面改訂したノーマンの集大成!」
ではこの観点から、ファストフード店であるマクドナルドは中国でいかにしてサラリーマンたちの仕事場と化したのか?
その包装はどのような効果を生んでいるのか?デザイン心理学の観点からそこに隠されたヒミツを暴いていきましょう。
「本能レベル」:きれいな外見の誘惑
「本能レベル」において「きれい」とみなされる包装デザインは大きく3つのキーポイントに分類されると言っています。
それは〈ビジュアル・さわり心地・フォーム〉
以下具体的に見ていきましょう。
1・ビジュアル:見た目の良さと吸引力
ある程度は見た目の良さ=吸引力と言えると筆者は言います。
文章では颜值:yán zhíと表現していますが、これは「顔面偏差値」や「美人度」「イケメン度」など外見を指すときに使われる言葉で、最近では人以外でも「見た目の良さ」という意味で使います。
商品の消費者に対する第一印象が消費者の心理にも大きく影響します。
その商品に対する興味や機能に対する期待、またクオリティーなど他の商品情報についてさらなる理解がしたくなるなど。
よって良い包装というのは抜きん出た見た目の良さと切っても切れない関係なのです。
ではマクドナルドの包装はどのように消費者を吸引しているのでしょうか?
まず「時代にあわせて進化させる」ということだそうです。
〈「一番きれい」なんて存在しない。ただ「よりきれい」があるだけ。〉と俗に言われます。
大衆の審美は、その時期の社会・経済・文化の発展にともなって違ったものになります。
よって最善の方法は時代に合わせて進化させ、常にアップデートし続けることなのです。
1950年代から2000年以降のパッケージの変化を見てみましょう↓
このように時代ごとで包装が大きく異なっていることがはっきりわかりますね。
このようにシンプルで断捨離的なミニマリズム的なパッケージで若者たちの注意を引こうとしているのです。
中国ビジネスでは若者がキーワードでしたね。
どこの国でも同じなのかもしれません。若者がトレンドを作っていくのでしょう。
中国ビジネスのキーワードは〇〇!「横たわり族」?「無一代」?この単語がわからない人は要チェックです!
そのブランドに触れる際にパッケージが最初の接触点になるのです。斬新なパッケージデザインこそが消費者に好奇心や購買欲を直接刺激できると筆者は言います。
そこで固定のパッケージ以外にもさまざまなコロボを実施して、限定パッケージを発表したりしています。このように時代のトレンドに乗って、消費者たちの購買欲や好奇心を高めているのです。
また2020年には台湾の著名なデザイナーAPUJANとのコラボで限定パッケージを発表しました。
マックの伝統的な紅白のカラーではなく、APUJANのブランドで使われる墨を垂らしたようなデザインが斬新で話題を呼びました。
これに合わせて店内の内装も変わりました。
2・さわり心地:いい触感が高級感をもたらす
マクドナルドの包装にはビジュアル以外にどんな仕掛けがあり、消費者をひきつけているのでしょう?―それはさわり心地、いわゆる触感です。
以前中国のネット上でこんな問題がネット民から出ました。
「なぜマクドナルドは紙の袋で、ケンタッキーはビニール袋で包装するのか?」
これにはマクドナルドの商品の触感に対するこだわりが大きく関係しているのです。
紙の袋であればエコでもあるし、それを食べて健康・天然であるという印象を持ってもらうこともできると筆者は言います。
3・フォーム:差別化された造型でブランド認識度UP!
包装の見た目はそのブランドと製品への吸引力を高めるだけでなく、ブランド認識度も兼ね備えていて、ブランドの個性や価格引き上げの効果もあるのです。
こういった包装は長年同じような感じで大きく「M」の文字が入っていて、ひと目でマクドナルドだということがわかりますね。
カラーの組み合わせだけでもマクドナルドだとわかるようになっています。これこそがブランド認識度です。
ほかに注目すべきはマックパイのパッケージはシンプルなデザインですが、ビジュアルだけでなく実用性にもかなり細かく配慮がされています。
パイを食べるときにやけどをしない配慮があり、また包装形状はパイがつぶれないようにデザインされています。
この洗練された独特な形状は今やマクドナルドのトレードマークにもなっていて、この形を見ただけでマックパイだとすぐにわかることでしょう。
「行動レベル」:使いやすくて手放せなくする魅力
行動レベルから見てみてもマクドナルドのパッケージに潜んでいる「暗黙のルール」は少なくないのです。
1・どうしてマックパイの包装には4つの穴があるの?
マクドナルドがマックパイを販売するようになったのは1986年からですが、当時からパッケージには4つの穴が存在しているのです。
この4つの穴はデザイン学上の意義が明確ではなく、推測するところこれは「換気」が目的ではないかと中国のネット上では議論されました。
パイは常温以上であるから密閉空間では水蒸気でサクサク感もなくなり食感が悪くなってしまうことがその理由であると。
そして、この穴があることで熱を発散させることができ、高温のパイも迅速に食べるのに適した温度まで引き下げてくれると言われています。
またこれをデザイン美学の観点から見ると、この穴が窓の役割を果たします。
そして、中に入っているパイの曲線的立体的な独特のボディーを観察することができて、デザインのレイヤー感(いくつかのデザインが重なるように用いられた感じ)を演出することができると言います。
さらにデザイン心理学の観点からみると、ゲシュタルト心理学とエドワード・ティチェナーの構造主義心理学で分析した場合、中のパイを外に取り出すというデザインが全体的なデザインの重要な要素であるといいます。
消費者に視覚上、中のパイを生み出したかのような感覚を与え、それを食べるという反射的な行為に移しやすくしているのです。
2・どうしてマクドナルドの紙袋には持つところがないの?
まず、マクドナルドの紙袋と一般的な紙袋では設計上も異なっているのです。
例えば、マクドナルドの紙袋に取っ手をつけたとしても(両端に穴を開けて持てるようにした場合でも取っ手を外側につけた場合でも)結局は重さに耐えられずに破けてしまうのです。
紙袋の紙も一般のものより薄いためです。
※しかし、大きい紙袋には取っ手がついているのです。下の写真参照
では取っ手のない紙袋はどうやって持てば良いのでしょうか?
一般的に店員さんがこの袋をお客さんに渡すときに上の部分を2回折っているとこの記者は観察しました。
そしてこれがお客さんへのヒントではないかと推測しています。このようにすれば持ちやすいですよと。
取っ手のある袋に比べると持ちにくいですが、小さい袋に入れられるものは多くありません。
そのため持つとしてもごく短時間となりますから、そう考えれば特に問題はないのかもしれません。
取っ手がない理由?
本誌ではさらに進んで考察がされています。ここでは2つの可能性が考えられています。
1・保温
まず、小袋に何を入れるか思い出すと、ハンバーガーとかポテトですよね。そして、これらは温かい状態で出されますね。
では、この取っ手がない理由が説明できそうです。
その目的は「保温」です。取っ手がないから上を折り曲げて持つことになるわけですが、そうすれば袋の中は密封状態に近くなり、保温しやすくなります。取っ手のある袋だとここまでの密封状態にはなりませんよね。
そして、これがコーラなどの飲み物は別途ビニール袋に入れられることの説明もつきます。
2・コストダウン
今やマクドナルドはいたるところにありますから、持ち帰りや配達だとしても長時間持ち運ばれることはほぼないわけです。
このため、長時間の持ち運びを想定して取っ手をつけるのはコストパフォーマンが悪いのです。
取っ手をつけることになれば、その分の材料費もかかるし、制作費もかかるわけです。よって、取っ手がない理由をコストを抑えることであると結論づけることもできるでしょう。
3・どうして商品によっては紙の包装とか紙の入れ物が使われてるの?
これには食材によって必要な包装が違うということから分けられていると考察されています。そして、これにはマクドナルドが人間工学の発想をうまく使っていることの暗示であると言っています。
人間工学はウィキペディアによると以下のように定義されています。
紙の包装
紙の包装はまずコストが低いことがあげられます。その他考えられているのは、ケチャップやソースが漏れるのを防ぐ効果があるということ。
このため、ハンバーガー類や朝マックはほとんどが紙の包装ですよね。
入れ物
これは大きいものは紙では包装しづらいという問題があるのでしょう。チキンナゲットなどがそうですね。
しかし、それだけではなさそうです。入れ物の中に紙で包装されているハンバーガーが入っているものもあります。
紙の包装+入れ物
これはまず、入れ物を使うことで押しつぶされることを防止していると考えられます。
そのほかに紙の包装のねらいであったケチャップやソース類の漏れ防止、それ以外には入れ物の上に味の違いが印刷されている場合もありますよね。種類を示す効果もあるのでしょう。
「内省レベル」:印象深い商品―なんだか忘れられなくて
商品を作ることにおいて「便利」というのは最終目標ではないのです。
消費者の期待をいい意味で裏切り、消費者に考えさせ、議論させ、こころのどこかにその痕跡を残せる商品こそが良い商品なのです。包装も同じことが言えます。
筆者の友達は、マクドナルドで仕事をするのが好きな理由を「マックは片手で食べられるから」と答えました。
片手で食べられるから、もう片方の手でスマホをいじることもできますし、キーボードをたたくこともできるのです。
マクドナルドはサラリーマンたちの要求にあう商品を打ち出すことに成功したのです。
マーケティングでもデザインは必須の教養
デザインもこのように細かく分析してみると数多くの戦略が見えてくるのです。消費者にいい印象を与えて、購買欲を刺激するためにも「最初の窓」であるパッケージデザインやロゴは重要な意味があるのですね!
これを機に教養としてデザインについて少し勉強してみるのも良いでしょう。
独学でデザインを勉強するのにおすすめの書籍は以下の2冊のようです。
マクドナルドの仕事術もあわせて学んでみたいという意識高い系の方はこちら↓
★中国語勉強中の方へ
「ちゃいなサプリ」のYouTubeでも中国語文法を1から解説しています。
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最後までご覧くださりありがとうございました!
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